『三流シェフ』(三國清三著)を読んだ
三國清三の『三流シェフ』という本を読みました。
フレンチの巨匠、三國シェフの半生が記された自伝。昔から名前は聞いていたが、多くの人の例に漏れず自分も YouTube で見かけるようになって詳しく知るようになった。
シェフが若い頃にテレビで見たことがあって、その時はすごく厳しい鬼のシェフって感じだったけれど、数年前に YouTube で見かけたときは好々爺という感じでずいぶん人が変わったな〜と思った。
この動画はどちらかといえば家庭向けのものなのだが、これとは別にシェフのレストランの毎月のメニュー試作を紹介する動画がある。こちらの動画は完成度が高くて、シェフの本職での雰囲気がかっこよくて最近はずっとこっちを見ていた。
先ほどの動画とは違った鋭くプロフェッショナルで妥協を許さない雰囲気がかっこいい。こういう職人っぽい人の仕事の紹介動画は好きでついつい見ちゃうが。動画の最後にでてくる料理が綺麗で感動してしまう。自分は食べるものにこだわりはとくにないし、かなり味音痴なので畏れ多くて食べに行こうとは思わないけど、単にすごく美しいなと思う。
三國シェフの YouTube の紹介になってしまったが、本の内容としてはシェフが動画やインタビューでよく話している若い頃の物語を詳細に文章にまとめられている。
北海道の海沿いの田舎で生まれ、中卒で札幌のホテルの料理人になって下働きをする。東京の帝国ホテルで皿洗いをして、日本でフランス料理を広めた人物と言われる総料理長に認められてヨーロッパに渡る。その後、フランスでいくつもの三つ星レストランにおいて巨匠シェフの元で修業をして、帰国。
ちょうど、日本はフランス料理が流行ってる頃で『フランスで認められた若手料理人』としてメディアに注目され、1985 年に自分のレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」をオープンする。そして 37 年後 2023 年に「オテル・ドゥ・ミクニ」を閉じ、新しいチャレンジを始める。
シェフが自分の話をするときは、毎回フランスの超有名シェフの名前が出てくる。そして、ミシュランの星の話になる。シェフが修行をした店はほぼ星付きのレストランだし、若い頃に修行した仲間の多くは今ではフランスで星付きレストランのシェフだ。
一方、シェフの「オテル・ドゥ・ミクニ」はミシュランの星を持っていない。以前は「東京にはミシュランがないからね」というのがその界隈の共通認識だったようなのだが、2007 年にミシュランが東京にできたときに星が一つもつかなかった。当時、その事件は界隈を騒がせたらしい。そして今まで一度も星がついたことはない。
ことあるごとにシェフは自分のレストランには星がない話をするし、星付きのレストランと比較する。「うちはそれでいいんだ」とは言うものの、よく話すので星がないことにコンプレックスを感じているのかなーと思っていていたが、そこらへんのこともこの本には正直に書かれていた。
(フランスから数々の勲章をもらって)
料理人として想像もつかないほどの名誉を与えられたのは、ある意味でいえば、ミシュランが星をつけなかったからともいえる。
……負け惜しみを言うのはよそう。それでも、ミシュラン の星を得られなかった傷が癒えるわけではない。ミシュランを否定することは、ぼくの存在を否定するのと同じことだ。二十歳でヨーロッパに渡ったときからずっと、その星を目指して生きてきたのだ。この気持ちは、料理人でなければわからないかもしれない。三國清三. 三流シェフ (p.187). 株式会社幻冬舎.
シェフは 37 年続けたレストランを閉じて、あらためて自分の料理をすることにしたらしい。シェフは何件もレストランを抱えているし、40 歳から次の料理人の育成に力をいれるようになって、自分の料理を追求していた若い頃とはかなり料理のスタイルを変えたようだ。ある意味、それが星をとれない要因の一つだった。だから、もしかしたら再び自分の料理を追求して、星を目指していくのかなと思った。
この本、シェフが今のレストランを始めるまでの話が9割を占めていて、今のレストランでの出来事はほとんど書かれていない。31 歳で自分の店をはじめて 37 年間、いろいろなことがあったはずだと思うのだがその話はほとんどかかれていない。
それには様々な理由はあるのかもしれない。近しい当事者が多いから書きづらいとか、最近の話を書いても特におもしろくないとか。でも、結局、人生において30代前半くらいまでの経験が自分の中でほとんどなのかなと思った。以前、亡くなった自分の祖父が個人的に書いた自伝のようなものを読んだことがあるけど、子供が生まれるくらいまでの出来事で8 割を占めていた。もちろん、祖父は戦争を経験したからその頃のことに重きを置いたのかもしれないが。
そういう意味で、すでにアラフォーに突入して数年が経過している自分にとっては感じるところがあった。自分が自伝を書いたとして、すでにその 8 割は埋まってしまっているのだろうか。そんなことはないと思いたいのだが、でも人生ってそういうものなのかもしれない。
結論は特にないが、そういうことを考えた本でした。